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渡部さとる写真集「demain」

2017年1月25日発行
3,500円+税
並製本/写真46点
サイズ 210×210×90mm / 300g

小学校の夏休み。始まったときには永遠だと感じられていた時間は、半分を過ぎると加速度的に進み、一日の長さが変わってしまったんじゃないだろうかと思えた。それでも大人が口癖のように「一年が過ぎるのはあっという間だ」と言うのが不思議だった。あの頃一日は今よりずっと長く、一年という単位は果てしのないものだった。
オートバイに乗るようになると、距離は一気に縮まった。山に囲まれた所に生まれ育った僕は、それまで立ちふさがっていた壁のような存在をやすやすと越えられることに驚いた。それは時間の感覚が大きく変わった瞬間でもあった。
雨の中、不慣れな運転で山道を走っていると、急なカーブを曲がり切れずに転倒し、車体ごと道路を滑っていった。水しぶきを上げて自分から離れていくオートバイのステップが路面を削っていく。その様子がスローモーションのようにヘルメット越しからもはっきりと見えた。時間にすればほんの数秒のことだったろう。

人は事故を経験したとき、時間の進み方に変化がおこると言われている。そして死を感じたとき、人生が走馬灯のように駆け巡るとも言う。
それは「これまでの記憶を高速で解析し、人生経験の中から生き延びるための方法を短時間の中に探っているのだ」と友人の心理学者が教えてくれた。脳が活性化し高速回転しているとき、相対的に時間はゆっくりと感じられる。
雪山を滑落した別の友人は、滑り落ちる間にフラッシュバックを起こし、子どもの頃に兄と庭先でアリ地獄をつついたことを思い出したという。「生死の境になぜアリ地獄だったのか分からない」と笑っていたが、脳内では“落ちる”という行為で繋がっていたのかもしれない。同じような臨死体験をした何人かに話を聞くと、意外にも記憶は次々に、というわけではなく、押し寄せるように集合的によみがえり、それは順不同のとりとめのないことばかりだったと言っていた。そしていずれもが永遠とも言える時間を感じている。

おそらく自分が死の淵に思い浮かべるのも、どうでもいい日の出来事なのだろう。時間も場所も、もしかしたら見たり聞いたりしたことで、奥底に留まっていた他人や親の記憶までも、古いアルバムでも見るように思い返すのかもしれない。

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